日本人形について
日本人形制作の歴史は著しく長く、伝統産業の他の分野同様、世界の中で秀でた存在であるといっても過言ではないでしょう。日本伝統工芸産業における日本人形の人気は衰えることを知らず、人形コレクターをはじめ、子供から大人まで、多くの人に愛されています。
日本人形の歴史は古く、日本最古の人形は鑑賞用の陶磁器タイプではなく、神聖な力を持つものとして、信仰の対象として作られたものでした。神や精霊が宿るものとしてみなされたり、悪病や災難除けに用いられたり、豊作を祈るまじないを目的にしたことが始まりでした。
約1000年前の書物『源氏物語』にも様々な種類の人形が登場します。しかし、当初、子供の健康を守る目的でつくられた人形も、長い年月を経て玩具へと、その存在価値を変えていきました。それでも、疫病や悪霊除けの為に、子供を守る縁起物として、幸せな結婚への願いを込めてつくられた人形もありました。
平安時代には、親が自分で彫り、布で飾った木製の人形が普及してきます。
江戸時代にはいると商業はもちろん、改革により、人形製作も発展を遂げます。裕福になった庶民の間では、より美しい人形を飾る習慣が広まります。その波に乗ろうと、当時の人形作家たちは、独特で手の込んだ人形製作に挑戦しました。今もなお受け継がれている人形製作の伝統と技法は、まさに、この江戸時代に生まれたものなのです。今日では、人形作家による手作り人形は計り知れない程貴重なため、人形師への注文は、もはや趣味レベルではなく、人形コレクターたちの特技とでもいいましょうか。もちろん、よりシンプルな作品もあるため、日本を訪れる一般の人形コレクターたちがコレクションの逸品となる作品を見つけることは、さおほど難しくないともいえるでしょう。

こけしについて
日本の家庭には1体はあるといわれるこけし。日本伝統工芸の一部であるこけしは、今年度中には世界に名を馳せる存在になることでしょう。色彩豊かで美しい作品こそがユニークな魅力を持っているのです。どのこけしも手作業制作のため、どれひとつとして同じものはないのも魅力のひとつです。この素朴な構成と鮮やかな色使いが表現する、奥深い歴史の中で組み合わせられた特徴的なこけしが、数百年もの日本の文化を今へと繋いでくれているのでしょう。その中でも、代表的ともいえる老若女性を表現した木製のこけしのシンプルな形は「日本の美」を体現しているのです。整った黒髪に白肌の美しい顔、色鮮やかな着物に包まれた体。デザインが季節と共に変化を遂げるのも魅力のひとつです。小型から大型、筒形から丸型など種類も豊富です。女型もあれば、武士やお坊さん型まであります。こけしは産地によって異なるのです。
こけしは江戸時代末期、東北地方から伝わってきたと記されています。諸説によると、元々こけしは、器や茶わんを作っていた現地の職人がお客様へのお土産として売っていたようです。また、同木彫り職人が子供たちへの玩具として製作したという説もあります。こけしで遊んでいた子どもの家は豊作が見込まれたともあり、広く愛されていたことは間違いない事実です。

最初のこけしが登場して以来、数百年が経っていますが、こけしの評価は変わらぬままです。こけしコレクターなどが集まった“こけし会”は、世界中で開設されているほどです。東北地方の6県では、およそ10系統のこけしに分類がされるようになりました。東北地方には弥治郎と命名された農家兼工芸家が集まった村もいくつかあります。春の頭から秋にかけて農業で生計をし、秋から春にかけて人形制作に取り組む村人が住んでいる村のことです。最近では「伝統系」のほか、人形作家の想像力を活かし、当時の流行に影響を受け、独創的な「新型」こけしも誕生してきました。

私にとってのこけしとは
あなたにとってのこけしとは?と聞かれれば、これという答えを出せないのは事実です。
ただ、確実にいえることは、数年の経験の中で数千体のこけしを作ってきた私にとってのこけしは、自然そのものの贈り物ということです。ただの木製の胴体だけの存在ではないのです。
「木材がこけしに形や魂を与える代わりに、こけしは木材を生かすのです」。
こけしは形との遊びであり、その組み合わせには制限がなく、シンプルに作った幾何模様からはたくさんの表現が生まれるのです。
様々な木材があるように、こけしも多種多様です。それぞれに個性があり、異なる目的とメッセージで誕生するのです。また、こけしの「持ち主」も様々であるように、こけしが歩んでいく「人生」も様々なのです。一生移動してばかりいるものもあれば、お守りとして机の上にただ置かれてあるだけというものもあります。かばんに閉まってあるこけしもあれば、他の人形と一緒に戸棚に飾ってあるこけしもあります。謝罪あるいは告白の手段となるこけしもありますし、誕生日などの大切な日を祝う目的で贈られるこけしもあるのでしょう。倫理学コースの対象話題となるこけしもあります。やさしい子もいれば、美人タイプ、優雅で純粋な表情をしているこけしもいます。生意気だったり臆病だったり、男の子や女の子、芸者だったり武士だったり、ハンガリー風だったり日本風だったり、本当にたくさんのタイプがあります。自作こけしの唯一の共通点は制作に込める心です。